薄麗、霧笛の、うろんな記憶 海辺の朽舟に、幽玄の揺らめきをみた 月橋の煌跡に、逍遙と漂う行く末を馳せた 其れ等は、悠久 肌と耳とに焼けついて 足の裏から絡み合う 体だけは忘れないでいる 言葉は、体を通じて、永遠になる

言葉が私をつくります 言葉は私を拒みませんが、私は言葉を嫌います 翼を折られて籠の中 影達が周りを揺らいで その内の幾つかが 私にも重なっている気がして 必死にもがいても、籠には影しかありません 籠の外には あまねくあまたを照す 男のかげがあります…

老師

―閑話― 堕落の反復、日々それを繰り行う事から己を保つ何かを昇華できないのであれば、きっと貴方はここから去ることになったとしても、まともにやってゆけるでしょう。 「まとも」とは、すること、させられることにおいて一番負担のかからない比率を見いだ…

雑記

針、針、針、針 針は北に向けられて、俺は脅迫されている 針は天を指していて、俺は脅迫されている 針は形を成していて、俺は脅迫されている 針は俺を貫きそうで、俺は脅迫されている 俺は脅迫されている なにものも針でしかないようで、 それでいて、短慮で…

なんだったか……なんだったかなんだったか…そうだ…俺の事をさっきまで考えていたんだ畏怖そうだ 俺は、畏怖を取り壊す下卑た性分畏怖と同化するほどに生粋な素養其等を約束する為の畢竟さそのどの持ち合わせも俺にはなかったんだいまに於いて尚も苛まれる俺は、…

つまり悠久とは今までとこれから、彼方と此方が連なり肯定される為に必要な繋ぎ目を指すのだ。永遠とは安住で、永久とは安定で、永劫とは安息で。人が種として繁栄を続けようとする限りは求めざるをえない、只一つの夢。それを主観が形を成させた、幽かな、…

老師

ズゥン ズゥゥン ズゥゥン ズゥゥン雨は激しさを増し、暗闇の静寂を反響させる屋敷のほの暗い洋灯が、それをより引き立てる影と影とが身震いする雷鳴が屋敷を包震させる───窒息状態から解放されると同時に身を刺すような悪寒に襲われた俺は、かといって「欠…

一つとして変わらないままではないか無知を知るということ、それは即ち俺の足を蠱毒に浸すことに他ならない明日への貢ぎが、俺の昨日を愚弄していく人たりうるとは斯様なことだ永きに居るとは斯様なことだ斯様なことで、在る、故に何処もかしこも愉悦に滲む…

目が 幾層にも連なった 括られた眼球が私の皮膚から 幾千にも別れた血管を伝って厭だ厭だこんなものは気持ち悪いならば、それと向き合うべきでないのだ俺を俺たらしめているものが 彼奴等の静寂の内にしか 在り得ないものならば芯の臓までが 伽藍の堂である…

肩書き、愛、浪漫、恒久、沙汰、因果、悔悟、忠考、信心どれもがもぬけの宙を穿いている境界は体に頗るささらいで、喉が渇く黒点が 凝っと 見透かしている生まれながらに定義付けられているならば支配たり、従属たり、性と呼ばれるそれに強いられている、調…

先ず思い出したのは、崖のことであった。崖。いくつもの湾曲を描いて連綿と屹立している、地と空の境目に、彼女の、ひどく幅狭い檻の中で矯められた軆をのさぼらさせている。私はその内側を歩く。お互いに、了解を得た上での、善く考えられ、距離を保たれ構…

自身を形成していたものが言葉へ成る、否言葉の成り様が自身を形成しているのだ言葉ゆえに積み重なる言葉ゆえに人たり得る言葉ゆえに伝わり創る無限の可能性では「個」は認識されない幽玄の虚を覗かせたところで、隣人を愉悦させるには程遠く、なにもこだま…

しあわせになって欲しかったんだあのままでは長くはもたないだろうどうせ死ぬのなら撃鉄は俺がひいてやろうそう思ったんだ 何もしないよりはましだろう?欲しかったのは"こんなの"じゃなかった!些細な、本当に些細な願いだったんだ!誰が間違っていた? わ…

私達は役割を担って生きているあなたがわたしに嵌めた役割わたしがあなたに求めた役割この世界は同じ場所にはとどまらない常に あなたとわたしの間だけで適応、上書き、修正、追加を繰り返していくそれと同時に世界は強く閉じられている頑なに拒んでいる 恐…

一歩づつ 近づく毎に顔が滲んでいく輪郭が歪む 網膜が軋む 均一でなくなる手元に置かれたオルゴールうろんな耳に反響するサイレン金切りの音が近づいてる 子供の暗唱もだ此方の祈りが遠ざかる 矛盾と抵抗もだすまし顔に怒鳴り声 淡い微笑みに罵り声相対せざ…

彼女と、俺の間には大きな隔たりがある彼女の体を支えているのは、十字架足りない髄を不均衡に補っているとって付けたような、あらぬ害を、彼女に向けて声高らかに叫んでいる奴等そんな光景を一括りにしたショウケエスの向こう側から顔を歪めて滲み笑う奴等…

混線

明確な立ち位置も定まらないままに、言葉、人と成りうる支柱ばかりが芒失していく。錆、灯りと黒で構成されている。いついかなる時であれ、これが起点だ。あぁ、なんて陰鬱な。他者はあなたを矯正道具であると同時に、自己の鏡写しでもあるのです。目を見て話…

鏡面にも暗闇は映るのに、どうしてか揺らぎは輝きばかりを増していくそれが、擬似的なものであるからに過ぎないのかであるなら、その影と揺らいだ数多の光には、錆という錆が、泥という泥が醸成され、内包されているやもしれぬそれが、本質からしてその様な…

箪笥

開かない箪笥ばかり置いてあるくつくつ、くつくつ、くつくつ、くつくつ女は部屋の隅でせわしなく笑っている先ほどまで、清廉で敬虔な人となりであることの尊さを延々と垂れ流していたラジオは、今は間延びしたノイズ混じりの呻きで空気を濁らし震わせている…

尤も、歴史の系譜もとい意志の血脈は俺と無関係な世界で継承されている夢物語のお伽噺以上の何物でもない銀の弾丸で化物を撃ち砕くこともなければ鐵の長槍で人非人を打ち抜くこともない充足は憤りを無闇に募らせるばかりで痛みは喉元の刃を錆び付かせるだけ…

激しさに恋い焦がれる刹那の煌めきに恋い焦がれる退廃の哀しみに恋い焦がれる事象に求め、人に求め、時に求める陽は翳り、夜も明けたこの夕暮れは幾重もの骨をうずめて出来ている夜と共に衰え潰えた艶蝶だ陽と共に儚く散った徒花だ皆己の懸けたともしびに殉…

ノイズ

安定を求める声は、未だやまない先刻、通りすがりのホワイトカラーが喫煙室で偶然目があった俺に、日常、政治、精神の退廃へのやるせない怒りから来る欺瞞の充溢を主張してきた彼は、自分は詰まるところ孤独を微塵も感じさせない一体感を世界に求め続ける日…

信仰は潤いをもたらすだろうか信仰は輝きをもたらすだろうか信仰は貫きをもたらすだろうか否 信仰は盲従だ 信仰は妄執だ 信仰は蒙昧だそのすべてを、抱擁し持ち得ている人間とは盲従だ人間とは妄執だ人間とは蒙昧だあがないたくもあがなえない抜け出したくと…

私は夢見る。腐蝕された肉で迫ってきた男達。冒され、穢れ、変わってしまった私の體を醜悪と罵った女達。あの時から、私の本質は虫になった。虫。生きるために生きる虫。感情の抑制の効かない虫。行動が一つで構成された虫。地べたを這いずり廻る憐れな虫。…

葉枝、間隙、黄飛沫虚突脳を焼く。何度も、何度も、不緩衝の布切れを、貫く人が近くなって 音が遠くなる顔が見えなくなればいい間に合わないのはわかってる螺旋は棄てて 標は燃やした扉は鍵して 芽は摘んだ咽は潰して 器は割れた杭を打って 坑を埋めたロザリ…

詰まるところ、人というのは、肉やら味噌やら糞やらの塊で、私はそれが生み出すものを愛し、憎み、妬み、狂う雪ぎの煌めきに満ちた夜半、氷糸が1房、私の前に垂れ、暗さと寒さの常闇へと誘った空は一面灰色で、地上から伸びる剥き出しの鉄塔が、隣に立って…

独り言

たまに考えるのずっと前の景色、昨日の景色、明日の景色、もっともっと先の景色きっといつでも同じなんだろうけど私は変わってしまうから、違ってみえるんだろうな、でも私はそのことに気がつかないんだろなってもちろん、私はいま生きてる自分自身を一番大…

やめろ。微笑むな。凡てを赦すには根拠が足りない。願いが気持ちに追い付かない。知識が心に追い付かない。想いの滑車は音も断てずに崩れ落つ。強いられている。これは、個人の裁量を越えた所に在るのだと、囁き零る。

down by the fallen sky

晩秋 鈍煌の街灯 鴉夜盗の番が飛び交う点滅繰り返す赤信号 灯月が蝕む灰白い吐煙 暗寧、静謐とで飽和され脳幹に支障をきたす程の痺れを浸透させる彼方 遠くの虚を掴もうと足を空に浮かせた その時 ふと いつか、だれかとの約束を思いだし少しの逡巡の後 帰路…

「君も僕も同じでは居られないよ体も心も削れて無くなるものだからね」──花は美しさを保てない─否、枯れなければ保てないのだ── 男は心底嬉しそうに供述した彼にとっては、老いこそ潤いであり、悲劇こそ痛快であり、死こそ源であり、灰色こそ至高なのだろう…