先ず思い出したのは、崖のことであった。
崖。いくつもの湾曲を描いて連綿と屹立している、地と空の境目に、彼女の、ひどく幅狭い檻の中で矯められた軆をのさぼらさせている。私はその内側を歩く。
お互いに、了解を得た上での、善く考えられ、距離を保たれ構築された装置であった筈なのだけれども、ここにきて───否
私が気づいていなかっただけで、ここへきても、なのだろう。未だ噛み合わずに、齟齬を生じさせている。
空と海にはない不和が。
ここ──崖と海には確かにある。崖と空にも確かにある。
彼女が半分を私で補っていたのか
彼女の半分を私が想っていたのか
さほど、「答を出したり、問うこと」に意味はないのだろう。
だから手と手を重ねている。
行為から想いが派生することはないのだ。
ただ、行い通りにしているだけだ。
でないと齟齬が。間違いが。
  波は 徐々に 崖を削り 摂りこんで