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一歩づつ 近づく毎に顔が滲んでいく
輪郭が歪む 網膜が軋む 均一でなくなる
手元に置かれたオルゴール
うろんな耳に反響するサイレン
金切りの音が近づいてる 子供の暗唱もだ
此方の祈りが遠ざかる 矛盾と抵抗もだ
すまし顔に怒鳴り声 淡い微笑みに罵り声
相対せざるに、期待せず
瞳の光彩のみが安寧を、虚偽を、繰返し
誘う、誘う、誘う、誘う 手繰り寄せる
歩いたり、止まったり、
見つめあったり、背けたり
人の子が、紛うことなき子供らが
神に、神に護られているのだと
存在も、媒介も、繋がりも、労りも
濫用されて、引き裂かれる、
価値を失い、棄てられる
救われるのか、救われたのか
救われようなどとは、思っていなかったか
俺は、俺は 嗤ってはいなかったか
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彼女と、俺の間には大きな隔たりがある
彼女の体を支えているのは、十字架
足りない髄を不均衡に補っている
とって付けたような、あらぬ害を、彼女に向けて声高らかに叫んでいる奴等
そんな光景を一括りにしたショウケエスの向こう側から顔を歪めて滲み笑う奴等
俺は知ってる 彼女は初めから十字架なんて、救いなんてまるで必要としていない
これは、彼女が祈られ、裏切られ、直され、壊れ、忘れられる迄の細やかな遊戯でしかないということを
俺は──俺はわからない
何処へ行けば誰が救われる?
俺の笑顔、俺の救い、彼女の笑顔、彼女の救い、わからない、しらない、いらない
責められている 誰に? 俺にだ
啓蒙も絞殺も大した違いはないからだ
隔てた溝も ないからだ
こうして苛まれている今でも
彼女は彼女を救ってる
俺は竦んで震えてる
混線
明確な立ち位置も定まらないままに、言葉、人と成りうる支柱ばかりが芒失していく。錆、灯りと黒で構成されている。いついかなる時であれ、これが起点だ。
あぁ、なんて陰鬱な。他者はあなたを矯正道具であると同時に、自己の鏡写しでもあるのです。目を見て話しなさい。姿、有り様から新しいあなたを学びなさい。
でも、あいつの目は嫌いだよ。目は、僕の心を取り囲んで、一生をかけて挽き殺すんだ。あいつが思ってることなんて知らない。銃の使い方を、引き金を引かなくても人っこ一人殺すのなんてわけないってことをあいつはちゃんと分かってる。
俺が思ったのとはだいぶ違ってたんだ。硝子はもっと割れてたし、音量だって小さすぎた。あれではまるで別物だよ。同じ情景、同じ思考、同じ大きさでないと意味がないんだ。
そうやってあいつはいつも間違えるんだ!
あれは狂気だよ……わざとやってるんだ。
救われない所から始まると信じてる。
泥の中に浸かってれば、僕が、僕が助けに来るって!どう考えたって助けるはずがないのに!だからあいつは………
死んじまったよ。自分で首を括ってな。
あの娘は昔っから他人が嫌いだったが、とうとうなにもかもが嫌いになっちまったみたいだ。俺は何にも知らないよ。何にも。
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鏡面にも暗闇は映るのに、どうしてか
揺らぎは輝きばかりを増していく
それが、擬似的なものであるからに過ぎないのか
であるなら、その影と揺らいだ数多の光には、錆という錆が、泥という泥が醸成され、内包されているやもしれぬ
それが、本質からしてその様な理としての働きに殉じているためであるのか
であるなら、此岸、彼岸の区別なく、色彩映ゆる水面こそ、影に揺らぎを持つのやもしれぬ
箪笥
開かない箪笥ばかり置いてある
くつくつ、くつくつ、くつくつ、くつくつ
女は部屋の隅でせわしなく笑っている
先ほどまで、清廉で敬虔な人となりであることの尊さを延々と垂れ流していたラジオは、今は間延びしたノイズ混じりの呻きで空気を濁らし震わせている
押し入れにはこれまでに得た沢山の温もりを詰めてある 開けることはないけども
きっと蛆だとか蝿だとか糞だとか、そんなものばかりに変わってしまっている
布団の横の窓からは始終光が差してくる
赤い光 迸った無数の火花が硝子に弾かれ、奈落の虚へと落ちていく
眼球が景色を溶かしているのか、俺の眼球が爛れているのか、景色が眼球を汚しているのか
あの透き灯りが偽物なのか、聖觴であることを定義したことが間違いなのか、充満する蠱惑的な花弁が白黒なのか
鍵を鋳ることができないものか
男は項垂れ、考えあぐねる
開かない箪笥ばかり置いてある