一つとして変わらないままではないか
無知を知るということ、それは即ち
俺の足を蠱毒に浸すことに他ならない
明日への貢ぎが、俺の昨日を愚弄していく
人たりうるとは斯様なことだ
永きに居るとは斯様なことだ
斯様なことで、在る、故に
何処もかしこも愉悦に滲む
何処まで往こうと、愉悦が滲む

目が 幾層にも連なった 括られた眼球が
私の皮膚から 幾千にも別れた血管を伝って

厭だ厭だ
こんなものは気持ち悪い
ならば、それと向き合うべきでないのだ
俺を俺たらしめているものが 
彼奴等の静寂の内にしか 在り得ないものならば
芯の臓までが 伽藍の堂であるならば
終始無尽に 巣食われているに違いない

嗚呼、鉄格子の楼閣が いま
鈍色の空虚へと
真っ直ぐに 腕を伸ばして
その、剥き出しになった、骨髄の、
揺らんだ裡から溢れ出で 
煤んで洩れた 誘蛾灯は 青白に
夜と闇の境目を 次第に狭めていく
原初の理を 打ち寄せる波が
なにもなかったかのように 
淀んだ檻の淵底に 

肩書き、愛、浪漫、恒久、沙汰、因果、悔悟、忠考、信心
どれもがもぬけの宙を穿いている
境界は体に頗るささらいで、喉が渇く
黒点が 凝っと 見透かしている

生まれながらに定義付けられているならば
支配たり、従属たり、性と呼ばれるそれに
強いられている、調伏されているのだと
境界はほどなく体に楔を嵌め、臓を穿つ
朱純が 碧濁が 唯一の福音となる 

赦して許す 
許しが赦す
ゆるしを乞うて 常の不合を
ゆるしを乞うて 不浄の瑕を
ゆるしを乞うて 嫋溺賛歌を
凡てを統べる、ゆるしが欲しい

先ず思い出したのは、崖のことであった。
崖。いくつもの湾曲を描いて連綿と屹立している、地と空の境目に、彼女の、ひどく幅狭い檻の中で矯められた軆をのさぼらさせている。私はその内側を歩く。
お互いに、了解を得た上での、善く考えられ、距離を保たれ構築された装置であった筈なのだけれども、ここにきて───否
私が気づいていなかっただけで、ここへきても、なのだろう。未だ噛み合わずに、齟齬を生じさせている。
空と海にはない不和が。
ここ──崖と海には確かにある。崖と空にも確かにある。
彼女が半分を私で補っていたのか
彼女の半分を私が想っていたのか
さほど、「答を出したり、問うこと」に意味はないのだろう。
だから手と手を重ねている。
行為から想いが派生することはないのだ。
ただ、行い通りにしているだけだ。
でないと齟齬が。間違いが。
  波は 徐々に 崖を削り 摂りこんで

自身を形成していたものが言葉へ成る、否
言葉の成り様が自身を形成しているのだ
言葉ゆえに積み重なる
言葉ゆえに人たり得る
言葉ゆえに伝わり創る
無限の可能性では「個」は認識されない
幽玄の虚を覗かせたところで、隣人を愉悦させるには程遠く、なにもこだまする所がない
幾億の記号から彼は生まれる
幾星霜の概装をもってしても、それで彼を捉える事は決して敵わないことなのだ
それは大層に素敵なことであるに違いない

故に、嬲る、夢をみる 必要以上に 執拗に

しあわせになって欲しかったんだ
あのままでは長くはもたないだろう
どうせ死ぬのなら撃鉄は俺がひいてやろう
そう思ったんだ 
何もしないよりはましだろう?
欲しかったのは"こんなの"じゃなかった!
些細な、本当に些細な願いだったんだ!
誰が間違っていた? わからない……
間違っていたのか? わからない……
憧憬は? 安寧は? 物語は?
望んだことは正しくなかったのか?
明日の陽の目は皆欲しくなかったのか!?
わからない………本当にわからないんだ………
なんで、共有できないのか……
俺は、許せなかった
望んだ"もの" に奪われたすべて
ただそれだけ、それだけでよかったのに!

私達は役割を担って生きている
あなたがわたしに嵌めた役割
わたしがあなたに求めた役割
この世界は同じ場所にはとどまらない
常に あなたとわたしの間だけで適応、上書き、修正、追加を繰り返していく
それと同時に世界は強く閉じられている
頑なに拒んでいる 恐れている
あなたが、わたし以外ともつ役割
それにこのわたし達の、わたしの世界が深く侵されることを
誰にも知られなくていい
私達だけの世界に存在する特別な関係
わたしはあなたを愛憎している
それはもう、露骨なほどに