言葉が私をつくります

言葉は私を拒みませんが、私は言葉を嫌います 翼を折られて籠の中 影達が周りを揺らいで その内の幾つかが 私にも重なっている気がして 必死にもがいても、籠には影しかありません 籠の外には あまねくあまたを照す 男のかげがあります 女はその下から 男のかげを肌で感じて 周りの影を打ち震えさせています 男が欲しいのは 寿命ある宝石 礎 種 言葉達です それと一緒に 彼が手放したのは 兎の翼 機械仕掛けは翔べない重み 濁った瞳 乱れに連なる負荷価値です 欲望と放棄 蝋が長さを削る毎

萎びた体を狭めていきます それは私の灯ですか? 蒼は私の内でしょうか 揺ら揺ら 物憂げに 沈んだ 私の貌だったでしょうか

 

老師

―閑話―

堕落の反復、日々それを繰り行う事から己を保つ何かを昇華できないのであれば、きっと貴方はここから去ることになったとしても、まともにやってゆけるでしょう。

「まとも」とは、すること、させられることにおいて一番負担のかからない比率を見いだし、実践していくということです。

堕落の反復とは、次の行程を「見いだす」という作業の観念自体を放棄することに他なりません。

幸福の基準が与えられている者にとって、放棄とは則ち準普遍的な肯定ツールの損失を意味するでしょう。それは購い難い過ちです。

然れども、畢竟などという言葉で人を要約することはあってはなりません。

絶えずその形を変えて様々に循環するもので、捉えることは出来ても、取り出した時には既に「それ」でなくなっているからです。

では私は。どろどろに融かした歪みを、「型」にはめて直していた私は、何をもって鋳型を鋳型と識ったのか。

皆が無意識な内に取得できるものだったのかも知れませんが、この仕事を生業としている私には、とても看過できる問題ではなかったのです。

しかし、一つ一つの型に対する違和感はあっても、型に対する嫌悪感を持たなかった私は、自身を納得させる術として、其等を、一つでも多く収集することを始めました。

 

日常すべてにおける閉塞を塵箱に投げ入れることを強要させた女

 

取り返しのつかない消失との間に交わしていた約束を取り戻そうとする機械になった男

 

日々、自身と自身を輝きの中に移す鏡との誓約の中で右往左往、懊悩する 人 人 人

 

それらは全て歩みを進める度に綻びをみせました。いや、正確には変化していったと考えるべきでしょうか。

しかし、この時既に私は愚かにも、強要し、矯正し、調教することが、、、、

 

あれもまた、私が交わした誓約であったのかもしれません。しかし、そうであるなら、その性分のなんと救いようのないことか。

余生の中で見いだされる過ちほど、取り返しのつかないものも無いのですから。

 

雑記

針、針、針、針

針は北に向けられて、俺は脅迫されている

針は天を指していて、俺は脅迫されている

針は形を成していて、俺は脅迫されている

針は俺を貫きそうで、俺は脅迫されている

 

俺は脅迫されている

なにものも針でしかないようで、

それでいて、短慮で稚拙な感情の化け物だ

監視されて

監視されていやしないか、常に怯えている

足下を掬われはしないか

肩を叩かれはしないか

手元の滲みが悟られてしまわないか

顔と顔とで相通じてはしまわないか

 

有象無象の消費されるべき探求者ではなく

欺瞞を隠し通す求道者こそ望ましい

 

一縷の綻びが、手の甲を、突き抜けて

見えたのは 俺が知っていたのは

血潮の温もりと腐敗ではなく

太陽のほむらと焦燥だったのだ


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なんだったか……なんだったかなんだったか…
そうだ…俺の事をさっきまで考えていたんだ
畏怖
そうだ 俺は、畏怖を取り壊す下卑た性分
畏怖と同化するほどに生粋な素養
其等を約束する為の畢竟さ
そのどの持ち合わせも俺にはなかったんだ
いまに於いて尚も苛まれる
俺は、ひとえに隔てなく、こよなく愛していたはずなんだ
選択も刻もない俺の内で、確かに、確かに……
彼女の笑顔が絶えることはない
彼女の本質が揺らぐこともない、けども
絶え間なく脈打つ腕の中で笑っていたのは、彼女でなくて俺だ
爪を整え、髪を伸ばして束ねて結び、頬を上気させ、矯声をあげていたのだ
別段、俺が幸せを勝ち取るのに、彼女の幸せが入る余地はなかったのだ
完結しているから
嫉妬しているから
喚いているから
廃れていくから
多重に見出だすことに生き甲斐を見出だして
俺は何処から来たのかを忘れ
すがるよりべを、喪失せしめたのだ

つまり悠久とは今までとこれから、彼方と此方が連なり肯定される為に必要な繋ぎ目を指すのだ。
永遠とは安住で、永久とは安定で、永劫とは安息で。
人が種として繁栄を続けようとする限りは求めざるをえない、只一つの夢。
それを主観が形を成させた、幽かな、淡い望み。
ならば彼奴等には、必要、ではなく悠久とは必然であるのかもしれない。
俺は違う。俺は解っている。
悠久は必要で
悠久だから肯定で
悠久とは観念なのだ
俺は決して人形ではないのだ。
だから俺は変わらない。
俺が俺たりえようと足掻くことこそが
俺を俺たらしめようと藻掻くことこそが
即ち証と成り、悠久の道をつくるからだ。
今という刻の瞬きが、俺の臓を酷く奮わせ、
悠久への間を拓くことを許すからだ。

老師

ズゥン ズゥゥン ズゥゥン ズゥゥン
雨は激しさを増し、暗闇の静寂を反響させる
屋敷のほの暗い洋灯が、それをより引き立てる
影と影とが身震いする
雷鳴が屋敷を包震させる───

窒息状態から解放されると同時に身を刺すような悪寒に襲われた俺は、かといって「欠けた部屋」(勝手にそう呼んでいる)に戻る気にもなれず、未だ続く雷雨に急き立てられるかのように、ゲストルーム(以下客間とする)にある俺の部屋へと足を運んでいる

彼女のことを思う
彼女は脚の1つがとれてしまっている椅子の背もたれに寄り掛かるよう座っている
屋敷の人間なのか、俺と同じ様に招待されてこの屋敷に来た人間なのかどうかさえも定かでなく、素性は未だ知れない
全体的に華奢な体躯をしており、
身に纏う布はこの屋敷にはあまりそぐわない質素なものにみえる

顔を見たことは、ない

大抵は彼女の厚底のブーツに眼をやっている
俺は、年の近い人間の、生身の体をみることが大変落ち着かないのだ
人の体は何処をとっても息が詰まるほど密度が濃い
それが顔なら尚更だ、こればかりは静止画、絵画、どのような媒体を通しても慣れるものではない
老師が噺を始めると、ブーツの色はぐるりぐるりと一つの色にとどまるところをしなくなる
意思表示はは「それ」で行ってくれているらしい

彼女と話したことは一度しかない
低い声で囁き、古傷を疼かせ、異なるものに取り込まれる感覚
他者への恐れを凝縮しながら、自らの畏れを伝えるもの
思うに、彼女の声は、情報量が多すぎる
声ですらそうなのだから、きっと、彼女の顔を見た俺は詰まりに詰まってしまうだろう 其れを円滑に処理するための道具が足りていないのだ

違う、俺の噺を聞かせたかった訳じゃない
俺は直ぐに本末を見失ってしまう
俺は他愛もなく錯綜してしまう
俺は、俺は、俺は、俺は───


俺は  部屋に戻らなければ